しばいぬ通信

  • インタビュー
    あま~いイチゴづくり。 でも生活は甘くない?  松本大祐さん あまおう農家 34歳 上毛町垂水
    如月
    04
    2015

    あま~いイチゴづくり。 でも生活は甘くない?  松本大祐さん あまおう農家 34歳 上毛町垂水

    降り注ぐ陽光を浴び、熟れたイチゴがルビーのようにきらきら輝き、甘い香りがビニールハウスいっぱいに広がっています。作り手の愛情に応えて甘みを増すのでしょうか。
    柔和な表情でせっせと収穫に励むのは松本ファームファームの松本大祐さんです。

    松本さんが手掛けているのは福岡の特選イチゴ「博多あまおう」。病害、湿害に弱く、生育が難しい品種です。手際よく果実をもぎ取る手つきには、どこか優しさが感じられます。

    「自分の子供のようなものですよ。こっちの思うようにはなかなか育ってくれないけど、苦労に見合った甘さになってくれますから」と2児の父親である松本さんは誇らしげ。

    箱入りあまおう

    箱入りあまおう

    それもそのはず。夜明けとともにハウスに入り、雑草取りや摘果をこなす日々。体力勝負の農作業で体重が10㌔減った年や、主力作物のあまおう以外を広く手掛けて大失敗した年を乗り越えてきたのですから。手間暇がかかる分だけ愛着も湧くというものです。

    家業を継ぎ、Uターン就農して今年で5年目。地元への思い入れがたっぷり……と、思いきやそんなことはないようで。
    「地元が嫌でしょうがなくて離れたから、自分でも想像してなかったです。だから(農業が)面白くなってきたのは最近なんですよ」

    なんとなく始めた農業でしたが、デスクワーク中心の会社員時代とは違ったもの作りの楽しさに目覚めたといいます。
    「なぜ冬場に電気をつけるのかとか、葉っぱが変な色になったのは何だろうとか。自分で調べたり、先輩から教えてもらったり。理屈がわかると、ぜんぶ見通しがたつようになりました」

    もちろん、楽しいことばかりではありません。昨年は梅雨に、あまおうの苗が病気で全滅。それまでにない大きな失敗に、自然の厳しさを思い知らされました。うなだれ、青ざめている松本さんに、70代オーバーの先輩農家が「大したことない。また作ればいい」と声を掛けられたそうです。動じることのない口ぶりに松本さんは慰められながらも「なかなかそんな境地にはたどり着けないですけどね」と先輩方の大きさを感じたそうです。

    収穫は年末から5月ごろまで続きます。

    収穫は年末から5月ごろまで続きます。

    ライブハウスもクラブもない。吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」のように、ヒップホップをこよなく愛した思春期の松本少年にとって地元は物足りませんでした。大阪に大学進学、東京で就職と、どんどん実家から遠ざかりました。

    そんな生活が変わったのは転職がきっかけ。プログラマーとして北九州の企業で2年間働いたものの、「自分にとって天職じゃない」とあっさり退社。同じ職場で知り合った妻諭子さんとともに、実家に戻り、「次は何しようかと考えてたら、いつの間にか流れができてた」といいます。

    松本さんが気付いたころには、「お前が一緒にやるなら」と父親がビニールハウス2棟を新築していました。お父さんはなかなかの策士のようです。「あれよあれよという間に決まってたんで。もうこれじゃ逃げられないっすね」。

    外堀を埋められての就農でしたが、地元で暮らすことへの抵抗はもうありません。自分が父親になったことで精神的に変化があったそうです。

    「周りの人の温かさ、優しさが分かるようになった。何もないと思っていた町には豊かな自然があると気付かされました」
    都会とは違う人間の営みが町にはありました。

    摘み取り、ラッピング、箱詰めまで全て手作業です。

    摘み取り、ラッピング、箱詰めまで全て手作業です。

    2年前に父親から経営を移譲され、今ではJAの部会長を務めています。
    頼もしさを増した夫に、諭子さんが農閑期の副業を見つけてきました。東京時代の本業であるサウンドクリエーターとしての仕事です。諭子さんは夫が好きな音楽に再び打ち込んでほしかったそうです。

    「はじめは勝手に応募されて怒ろうかと思ったけど、うれしくて。結局なにも言えませんでした。今はネットを使えば、こっちで生活していても音楽関係の仕事もできますからね。でも本業はあくまでイチゴ。自分はまだ根を張ったばかり。少しずつ成長していきたいです」
    大きな実をつけるのはこれからです。

    Inter1 あまおう